中国:ニンニク・バブル 投機マネー、野菜を標的 政府は監視強化(毎日新聞)

毎日新聞 2010年7月26日
http://mainichi.jp/select/world/news/20100726ddm007030045000c.html

中国料理に欠かせないニンニク、緑豆などの価格が中国で高騰している。背景にあると見られているのは、不動産市況の過熱抑制策で行き場を失った投機的資金の農産物市場への流入。生活に直結する農産物価格の高騰は政府に対する庶民の不満を高める危険があるため、中国政府は農産物の価格監視を強化するなど対策に躍起となっている。【済南(山東省)で鈴木玲子】


中国のニンニク大生産地である山東省の省都・済南市の匡山(きょうさん)農産品卸売市場。野菜を満載したトラックがひっきりなしに行き交うが、高騰が続くニンニクは品薄状態だ。


「きょうの卸売価格は500グラム6元(約78円)。来年は10元(約130円)を超すだろう」。ニンニク卸売業者で、自らもニンニク畑を持つ劉銀利さん(48)はこう予測する。


中国は世界最大のニンニク生産国で、国連食糧農業機関(FAO)によると、世界生産の8割が中国に集中する。その中国で07年初め、それまで上昇してきたニンニク価格が一転して下落に転じ、08年には大量の過剰在庫が生じて価格が暴落した。農家の出荷価格が生産コストを下回り、業者が処分に困ったニンニクを周辺国に大量に密輸して問題になったほどだった。


ところが、農家が作付面積を大幅に減らしたため、09年の生産量は激減。さらに同年秋になると、新型インフルエンザの流行で「ニンニクは殺菌効果が高い」と言われるようになって中国内外でニンニクブームが起きた。


これに目を付けた投機的資金が農産物市場になだれ込んだためニンニク価格が急騰を始めたと見られている。08年のリーマン・ショック後の景気刺激策の結果として資金がだぶつく一方、中国政府は09年末から不動産市況の過熱を抑えるための規制を強化。上海株式市場もリーマン・ショック前ほどの活気は取り戻していないため、規模が比較的小さく価格操作が容易なニンニク市場が狙われたようだ。


山東省など主要産地ではニンニクの買い占めも横行したため、中国政府は今年5月、各地方政府に取り締まりを強化するよう指示。価格は一時下落したが、6月には再び上昇に転じた。今月24日の卸売価格は09年5月の8倍になった。


生産量を再び増やそうにも、ニンニクの種子価格も高騰しているため、農家が作付面積を急速に増やすのも難しい状況だという。


かゆやスープに使われる緑豆も、5月に500グラム8・5元(約110円)だった上海での卸売価格が、今月は11元(約143円)に上がった。中国の6月の消費者物価指数(CPI)は、農産物価格の上昇が響いて前年同月比2・9%上昇した。


中国政府は、悪徳業者の取り締まりを強化。ニセ情報を流して緑豆の価格つり上げを狙ったり、ニンニクを大量に買い占めた業者を摘発するなど、価格高騰による社会不安の広がりを抑え込もうとしている。


農産物価格をめぐっては、米国の低所得者向け住宅ローン(サブプライムローン)問題が深刻化した07年から08年にかけて、金融市場から引き揚げた投機的資金が穀物市場に流れ込んで世界的な穀物価格高騰を引き起こしたとされる。


中国では行き場を失った投機的資金が農産物市場に向かいやすいと言われ、06〜07年にはプーアル茶への投機が過熱して価格が10倍にはね上がった銘柄も出た。17世紀のオランダでもチューリップの球根が投機対象となり、「チューリップ・バブル」と呼ばれている。
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