地域農業の振興/異業種と連携を進めよ (日本農業新聞)


日本農業新聞 論説 2010-4-19
http://www.nougyou-shimbun.ne.jp/modules/news1/article.php?storyid=1237

地域農業を振興するためには、新しい農業のシステムといえる仕掛けや仕組みを、それぞれの地域が工夫してつくり上げることが必要になっている。だが、従来のように農業分野だけで工夫しても限界がある。この壁を突き破るには、いろいろな異業種との連携が一つの解決策になる。政府は農業の6次産業化で所得増大を掲げている。先進的な事例を参考に、異業種との連携を積極的に進めたい。


香川県のイチゴ高設栽培の方法に「らくちん」栽培システムがある。JAグループ、県の試験場、大学、電力会社が一体になって、システムと栽培マニュアルを開発し、実証試験を通して普及した。産官学の知恵を結集して、高齢農家が取り組める新栽培システムを開発したものだ。


静岡県のトマトブランド「アメーラ」は、県の試験場が開発した基本技術を、農家と種苗会社が協力して煮詰め、高糖度トマトの栽培システムとマニュアルを作り上げた。さらにブランドを確立するために、地元JAはもとより大学やフードコーディネーター、デザイナーなど多彩なブレーンと連携している。


先進的な成功事例を分析すると、異業種との連携が見逃せない。互いの考えがぶつかることもあるだろうが、知恵が合体して新しい手法が生まれている。


政府は、農業・農村の6次産業化を、農家が独自に生産・加工・流通(販売)まで一体的に取り組んだり、製造業である2次産業、流通やサービス業である3次産業と融合したりして、農家や農村の所得増に取り組むことだとしている。

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農商工連携 第1回 らくちんなイチゴ栽培システム(METI/経済産業省
http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/nicestation/noushoukou/1.html


アメーラトマトホームページ http://www.amela.jp/


第8部 農を開く【02】静岡 「アメーラ」 : 地域再生 - 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/localnews/chiikisaisei/08/articles/3932.html

評価が急上昇しているトマトの注目株がある。その名も「アメーラ」。イタリア語のようだが、れっきとした静岡県生まれ。「甘いでしょ」という方言にちなみ名付けられた。徹底した品質管理による甘さと、年中収穫できる体制を整えたことが人気の秘訣(ひけつ)。通常のトマトと比べ、4〜5倍の高値で取引されている。
 

▽実に栄養分を凝縮
「最初に酸味、後から甘味が増すでしょう」。静岡県焼津市の大井川農園のハウスで、赤みを帯びたトマトを手に高橋章夫(たかはし・ふみお)さん(70)は白い歯を見せた。アメーラ生産者でつくる「株式会社サンファーマーズ」(静岡市)の社長を務め、育成に取り組んできた。
 ミカン農家だった高橋さんは、価格低迷に悩みミツバなどの葉物類に切り替えた。それでもコスト競争への不安はつきまとう。「付加価値の高い農産物を作りたい」。たどり着いたのがアメーラだった。
 静岡県農林技術研究所は1993年、高糖度トマトの栽培技術の研究を開始。その中で生まれたアメーラは与える水を極限まで減らし、60〜80グラムと通常のトマトの約3分の1と小ぶりだが、甘みと栄養分を凝縮させたのが特色だ。高橋さんら3軒の農家は97年、共同販売組織を立ち上げ、出荷を始めた。
 軌道に乗せるには消費者の信頼が大前提。出荷時に厳しい糖度基準を設けた。コクや甘みと酸味のバランスの良さが知られ、県内外の量販店や外食チェーンへ販路が拡大。気が付くと注文に生産が追いつかなくなった。

 
 ▽目標は10億円 
 課題はもう一つあった。温暖な静岡県は夏から秋にトマトの生産量が極端に減り、安定出荷ができない。このため冷涼な気候の長野県軽井沢町に着目。2005年に試験栽培を開始。09年には人工光を使った育苗システムなどを備えた大型ハウスを建設、年間通して出荷できる体制が整った。
 高糖度のミニトマト「ルビンズ」の生産も本格化。サンファーマーズには静岡、長野両県から10軒の農家が参加、栽培面積はアメーラが11ヘクタール、ルビンズも1・7ヘクタールに拡大。09年度の販売額は7億円と、3年前の1・5倍以上になる見通しだ。
 社員は39人に増え、うち20代〜30代の若手が25人を占める。「農業はもうかるとアピールできれば、後継者は必ず現れる」と、高橋さんは話す。100人余りのパート従業員も抱え、地域を支える産業に育ちつつある。
 次の目標は販売額10億円だ。稲吉正博(いなよし・まさひろ)専務(56)は「海外でも高級食材として取り上げてもらいたい」と話し、目を外にも向ける。「目指すは世界一のトマト産地」と力を込めた。(静岡新聞社、文と写真・森田憲吾


一口メモ
企業の農業参入 農地取得が可能な農業生産法人に企業が出資する方法や、企業が農地をリース方式で借り入れて農産物を生産する方法などがある。昨年12月に改正農地法が施行され、出資上限や借用期間などが緩和された。

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第8部 農を開く【01】福島 輸出に活路 : 地域再生 - 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/localnews/chiikisaisei/08/articles/3931.html

 「農家個人ではできないことを農協が実践する時代。挑戦と改革が旗印」。「JA伊達みらい」(福島県伊達市)の数又清市(かずまた・せいいち)営農生活部長(54)は力を込める。同JAは2005年から特産の桃を海外へ売り出し、年々輸出量を増やしている。狙いは販路拡大とブランドの確立だ。海外戦略を通じて競争力を強化、地域農業の未来を託す。

 
 ▽国内では競合 
 JA伊達みらいが事業を展開する県北地方の伊達市桑折町(こおりまち)、国見町(くにみまち)は「果樹王国ふくしま」を支える一大産地。特産の干し柿「あんぽ柿」やリンゴなどの生産が盛んで、中でも桃の生産量は東北一だ。桑折町国見町の町花も、もちろん桃。春になると、花が野山を一面ピンク色に染め、まさに桃源郷が現れる。
 地域の象徴として住民から愛される桃。しかし「出荷の最盛期は1週間程度と短く、傷みやすい。しかも、国内の他産地と競合する」(数又部長)問題を抱えていた。そのため、稼ぎ時の8月中旬の国内販売単価は安値傾向が続き、危機感は募っていた。
 突破口は逆転の発想だった。売れる市場を自分たちで新たに作ればいい。「活路を輸出に見いだした」と、数又部長は話す。05年に初めて輸出した先は台湾で、35トンを東京の大田市場を通して船便で送った。
 09年には53トンに増加。現地では品質が評価され、国内よりはるかに高い、1個千円程度で販売され、市場の魅力は大きい。ロシアやシンガポール、タイ、香港、ドバイにも販路を広げ、空路を活用した輸出も展開する。
 

 ▽販売戦略に自信 
 ただ、輸出量は同JAの年間取扱量約7800トンのうち、まだ1%程度でしかない。一部の組合員からは「本当にもうかるのか」との声もある。しかし、数又部長は「生産者に利益を還元するためには、ブランド化が不可欠」と言い切る。
 背景には、販売戦略で知名度が着実に向上していることへの手応えがある。主力品種「あかつき」の糖度15以上の最高級品「伊達の蜜桃」は東京の百貨店で1キロ1万円で販売されるまでになった。
 実績をテコに、さらなる品質向上を目指す。選果設備を最新型にし、輸出促進に産地で直接検疫を行う「現地検疫」も導入。品評会で優秀な成績を残した生産者だけが出荷できる「究極のブランド商品」も手掛ける。
 福島県農産物流通課の田村完(たむら・かん)課長(55)は「消費者に買ってもらうには何をすべきかを常に考えている」と話す。新たな可能性を模索する挑戦が続く。(福島民友新聞社、文・渡辺哲也


一口メモ
福島県の桃 2007年産の栽培面積は1800ヘクタールで、山梨県に次いで全国2位。他産地との競合を考慮し「あかつき」など晩生種を中心にしながら、早生、中晩生種の導入を全県的に進め、高品質化と出荷時期の拡大を図っている。

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第8部 農を開く【03】熊本 米粉メロンパン : 地域再生 - 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/localnews/chiikisaisei/08/articles/3933.html

 熊本県菊池市のスーパーの一角にあるパン製造業「古木家(ふるきや)」(熊本県阿蘇市)泗水(しすい)工場。焼き上がったばかりのメロンパンが並んだ。ちょっと違うのは米粉を使っていること。しかも、発案は高校生。発売から約1年半で27万個を出荷する大ヒットとなり、古木大次郎(ふるき・だいじろう)社長(41)は「ここまで事業をもってこられた」と感慨を込め振り返った。
 

 ▽地元企業も支援
 県立鹿本(かもと)農業高(山鹿市)の食品加工部が、米粉パンを手掛け始めたのは2004年。県産米の用途を広げ地域の食料自給率も上げたい。農家の厳しさを知る生徒の取り組みに熱が入った。県の特産、メロンとの組み合わせに工夫を重ね、果汁入り白玉団子をパンに包み込むことで、香りと色を残すことに成功した。
 「高校生のコメロンパン」を、地元企業も支援した。生徒たちの相談を受け、食品加工企画「阿蘇デリシャス」(阿蘇市)は、商品化に向けグループの古木家と協議。古木社長は「米粉パンは熟成させすぎると硬くなる。調整は難しかった」と話す。別のグループ企業に所属し、テレビ番組で人気のチンパンジー、パンくんの写真を包装紙に使うことも決まった。
 販路開拓は、スーパー勤務経験を持つ阿蘇デリシャスの野田謙二(のだ・けんじ)常務(45)が百貨店のバイヤーと折衝。08年8月に地元百貨店で販売すると、1週間で9千個(1個180円)を売り切った。大丸や伊勢丹などにも拡大、使った米粉は計12トンに上る。評判を聞いた量販店から引き合いもあるが、価格競争に巻き込まれたくないと百貨店での販売にこだわる戦略だ。
 実践の場は生徒たちが、商品開発での利益計算や商慣行を学ぶ絶好の機会になった。野田常務は「生産者やメーカー、小売りで利益の適正分配ができなければ、事業は長続きしないと教えている」と言う。鹿本農高食品加工部顧問の大倉龍喜(おおくら・りゅうき)教諭(46)は「プロの力で全国販売が果たせた。学習へのプラス効果は大きい」と喜ぶ。学校と企業、農家、それぞれに果実をもたらしつつある。
 

 ▽雇用の受け皿に 
 古木家は泗水工場で09年3月、鹿本農高を卒業した富田耕輔(とみた・こうすけ)さん(18)を新規採用した。在校生は富田さんの指導でパン作りを学ぶ。地域の資源を生かそうと始まった試みは、雇用の受け皿と指導者養成という次のステージに踏み込んだ。
 熊本県では昨年、地場製粉会社による九州最大の米粉工場が稼働。小・中学校で週1回、米粉パン給食も始まった。新しい加工食品作りが活発化、米粉に寄せる期待は高まっている。(熊本日日新聞社、文と写真・井村知章)


一口メモ
米粉の活用 年間消費量は2008年度の推計で約9500トン。農林水産省は、小麦の年間輸入量の約1割にあたる50万トン程度を米粉に代替すれば、食料自給率が1・5%上がると試算しており消費拡大を目指し、支援策を打ち出している。

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第8部 農を開く【04】まとめ 知恵活用と連携 : 地域再生 - 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/localnews/chiikisaisei/08/articles/3934.html

農業への逆風をはね返し、各地で特産品を育て販路を開く奮闘が続く。共通項は、地域の知恵の活用と業種を超えた連携だ。持ち味を生かした取り組みを育て「点」を「面」に広げれば底上げにつながる。鳩山政権が目指すべきは、地域が競い合える環境づくりだ。
 

 ▽巨費投入に疑問 
 「農林水産行政を新しい段階に導く歴史的意義を持つ」。昨年暮れ、赤松広隆(あかまつ・ひろたか)農相は来年度予算案に満足げだった。目玉は、生産費の赤字を補てんするコメの所得補償制度。経営が安定すれば食料自給率アップにつながり、農家が努力した分は所得が増えるとする。
 ただ、対象を限定せず全国一律で巨費を投入する施策に、どれほどの効果があるか疑問との声は多い。元農水省幹部の山下一仁(やました・かずひと)・経済産業研究所上席研究員は「農家票が欲しいだけの政治主導。食糧管理制度時代へ先祖返りだ」と指摘。生産コストの高い小さな兼業農家が温存され、大規模化も停滞するとみる。
 月刊誌「農業経営者」の浅川芳裕(あさかわ・よしひろ)副編集長も「赤字経営を認めれば競争原理が働かない」と批判し、黒字経営か、黒字化計画を提出した赤字農家に限った新たな補助金を提案する。経営規模や作物、販売先は問わずに融資し、5年で黒字化すれば返済は免除する仕組み。創意工夫と経営努力を促す狙いだ。

 
 ▽農業は多彩 
 「地産外商」が注目を集めている。産地で消費する「地産地消」ではなく、大都市や海外を販売先に絞り、産地自ら売り込む戦略だ。昨年夏、地産外商公社を設立した高知県の担当者は「県内は人口減少でじり貧。外に打って出ないと地方に将来はない」と言い切る。
 国は2005年の食料・農業・農村基本計画で「地産地消」推進を掲げ、直売所整備を加速した。しかし、一部地域では客が集まらず苦戦中だ。優秀なアイデアでも、すべての地域に有効とは限らない。高知県が取った戦略転換は、実情に照らすことで新たな道が開けることを示している。
 大都市での農産物直売や商品開発・販路拡大支援事業は「民間でやればいい」とされ、国の来年度予算案から消えた。しかし、販路確保が簡単でない地方の脆弱(ぜいじゃく)な農家もある。画一的メニューを押しつけながら、一斉に引っ込めてしまうやり方では自立は進まない。
 大規模化し大市場へ、少量でも他品種を特定の消費者へ―農業の顔は多彩だ。一律の所得補償ばかりに傾注するのではなく、頑張る地域や農家がそれぞれに腕が振るえる仕組みが必要だ。(共同通信社、文・岡部智也)


一口メモ

農家の現状 農業就業人口は1960年には1454万人を数えたが、2009年は約8割少ない290万人に減った。一方、農業総産出額は84年の11兆7171億円をピークに右肩下がりで、07年は8兆2585億円に落ち込んだ。

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第六次産業 【だいろくじさんぎょう】 提供元:「大辞林 第二版」
http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn/236778/m0u/%E7%AC%AC%E5%85%AD%E6%AC%A1%E7%94%A3%E6%A5%AD/
(新語)農業について,生産だけでなく加工・流通・販売等も統合的に取り扱うことで,事業の付加価値を高める経営形態。第一次産業(生産),第二次産業(加工),第三次産業(流通・販売等)を足した(掛けた)形態であることから。第 6 次産業。六次産業。6 次産業。「―化」


(補足説明)農学博士の今村奈良臣(いまむら ならおみ)が提唱


6次産業 - Google 検索
http://www.google.co.jp/search?q=%EF%BC%96%E6%AC%A1%E7%94%A3%E6%A5%AD&ie=utf-8&oe=utf-8&aq=t&rls=org.mozilla:ja:official&hl=ja&client=firefox-a

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