'10参院選 農業 大規模化と保護、模索(毎日新聞)


毎日新聞 2010年7月4日
http://mainichi.jp/select/seiji/10saninsen/news/20100704ddm003010118000c.html
◇米価下落、担い手不足、財源は… 所得補償、急増の恐れ


日本の農業は主食の米の価格が25年間で約2割下がり、農業に主として従事する人の72%が60歳以上と厳しい環境に直面している。強い農業の確立や自給率の向上には、規模拡大による生産性向上と、中山間地における直接所得補償の組み合わせがカギになる。【野口武則】



民主党政権は今年度、戸別補償に関するモデル事業として米作農家を対象に(1)米戸別所得補償モデル事業(3370億円)(2)水田利活用自給力向上事業(2167億円)−−の2事業を実施している。米価に左右されにくくし小規模農家を保護するのが狙いだ。



1農家当たりの水田作付面積は平均で1・37ヘクタールで、1農家当たりの所得補償は20万円強だが、実際には3割強が減反されることから、年15万円弱に過ぎない。「定額給付金と同じで(低額の)ばらまきで効果はない」(大規模農家)との指摘が出ている。


さらに、米の販売価格が過去3年の平均価格を下回った場合、販売価格と平均価格の差額の一定割合を補償。農家の収入は安定するが、人口減などで米の消費が減少し米価の下落が続けば、生産コストとの差額は増大し補償額が急増する恐れもある。そうなれば「財政破綻(はたん)は必至で持続できない。対象を主業農家に限るべきだ」(山下一仁・経済産業研究所上席研究員)と見直しを求める声も強い。



自公政権は07年に始めた「品目横断的経営安定対策」で、大規模農家や集落営農補助金の支給を絞り構造改革を促した。個人・法人は4ヘクタール(北海道は10ヘクタール)以上、集落営農は20ヘクタール以上が対象だったが、「小規模農家の切り捨て」と、07年参院選では農家から批判を受けた。このため、同年末に面積要件を撤廃し、名称を水田経営所得安定対策に変更した。今年度は従来の安定対策と、民主党の戸別補償が併用されるが、来年度の本格的な開始前に「モデル事業を検証しつつ」(民主党政権公約)修正されるとみられる。


自民党政権公約で戸別補償を「一過性のバラマキ」と批判。「全国一律ではなく」、「流した汗が所得増大につながる」農業政策にすべきだとして民主党との違いを強調している。「日本型直接支払い」や「経営所得安定制度」の創設を掲げるが、支給要件の具体例が示されておらず、小規模保護か大規模化かの方向性もあいまいだ。また、「JAこそ地域の担い手」、「土地改良事業の復元」と明記し支持団体のつなぎ留めに必死。石破茂政調会長は5月の政権公約の原案発表時、「JAや土地改良区が地域を守る主体だ」と語るなど、農業団体を通じた地域社会の再生を訴えた。


公明党は、民主党と同額の米10アール当たり1万5000円の直接支払い、環境や景観保護などの観点からの環境直接支払い、地域ごとの経営安定対策の3階建ての補償と、「営農規模拡大を支援」を併記した。


共産、社民両党は、米価を維持した上で戸別補償に加え、環境保全の役割を評価して10アール当たり1万〜2万円の直接支払いや、輸入自由化反対など手厚い保護を訴える。


国民新党は「減反政策の抜本的な見直し」を掲げ、米粉、飼料用米消費の拡大で自給率向上を図るとしている。たちあがれ日本は「経営集約化促進・規制緩和と経営所得安定制度を同時に推進」、新党改革は「海外への積極攻勢で競争力を高める」とした。


「都市型政党」のみんなの党は「米価下げによる需要拡大」を唯一明記。「減反政策を段階的に廃止」し、市場原理に任せて米価が下落すれば、消費者は歓迎し輸出も可能としている。


◇民主「土改連つぶし」 予算組み替え、にじむ思惑 議員兼職禁止−−自民と分断


民主党政権が今年度実施する「米戸別所得補償モデル事業」と「水田利活用自給力向上事業」の財源は、農業農村整備費を前年度比3643億円削減したことと、大規模転作を支援する産地確立交付金1466億円の廃止から捻出(ねんしゅつ)した。農村整備費は、自民党を支持してきた各地の土地改良事業団体連合会(土改連)を通じ土地改良事業に流れる仕組みになっており、民主党の農業政策には土改連つぶしの思惑もにじむ。


政府は3月、国会議員と地方議員が土改連役員を兼職しないよう求める方針を決めた。土改連は農地の基盤整備や排水路などの測量、設計を請け負う団体だが、参院比例代表自民党から候補者を出すなど、自民党との関係が深かった。



秋田県土改連の高貝久遠会長(63)は「農業の規模拡大に基盤整備は必要。無駄かどうかは、災害が起きないと分からない」と意義を強調する。しかし、民主党政権の誕生で、国、県からの受託事業は今年度は5億8000万円になり、前年度比で約4億円減少した。


同土改連の政治連盟は、参院選比例代表は自主投票、秋田選挙区は民主、自民の両候補を推薦して、初めて自民党と距離を置いた。


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■ことば
◇直接支払い


民主党の戸別所得補償は、欧州連合(EU)や米国の制度を参考に設計した。EUでは農業者の収入を保証する「直接支払い」を92年に導入。作付面積などに応じて支払われたが、05年からは過去の支払い実績に基づいて支払額を決めている。米国は生産費と市場価格の差を補てんする「不足払い」を96年に廃止したが、02年に復活させた。いずれも競争力強化のため農作物の価格を引き下げる代償として、補てんしている。