新たなトラブル?隣の"畑(はた)"迷惑 虫・におい、家庭菜園ブームの裏側(日本経済新聞)


日本経済新聞 2010/7/7
http://www.nikkei.com/life/living/article/g=96958A88889DE3E2E7E4E1E1E7E2E2E4E2E5E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;p=9694E3E6E2E4E0E2E3E2E4EAE6E2

自宅の庭やベランダで家庭菜園を楽しむ人は多い。日々野菜の成長を実感でき、新鮮な野菜を食べることができるからだ。ただ不慣れな人も多い。ブームに乗って始めたものの、多くの虫が集まったり肥料のにおいが広がったりして近所の人が苦情を訴えるケースも出てきた。そんな“畑(はた)”迷惑事情とは。



「虫がすごい」。 2009年8月、静岡県の男性会社員Aさん(46)は妻(36)からの電話を受けて困惑した。それまでも玄関先に虫がいると市販の缶の殺虫剤で対処していたが、急に大量発生したという。本格的な殺虫剤と噴霧器を携えて帰宅したAさんは、隣家の様子を見て合点がいった。「隣が庭のカボチャの葉を刈り取ったからだ」


●隣に言うしか…
隣家はその1年前からナスやキュウリなどの家庭菜園を始め、その年はカボチャに挑戦していた。その日、葉を刈ったことで虫が大挙してAさん宅に移ったようだ。「隣に言うしかない」と妻と話し合い、「すみません。殺虫剤をまいてもいいですか」と許可を得て、隣家と自宅の両方で作業をした。「普段から関係は良好。悪気はないと思うけど……」と苦笑する。


庭やベランダで野菜を育てる家庭菜園を楽しむ人は多い。3月、全国20歳以上の男女1510人を対象に実施したアサヒビールの調査では、「家庭菜園をしている」は33%。「今はしていない」を含めると、経験者は6割近くにのぼった。


家庭菜園に詳しい恵泉女学園大学教授の藤田智さんは「04年ごろから徐々に団塊世代に定着したうえ、食の安心・安全志向の高まりもあり、主婦層などに広がった」と話す。野菜作りは楽ではないが、「努力の成果が実感できる点が受けている」という。


しかし、密集した住宅地では不快に感じる人もいる。09 年8月、東京都杉並区の環境課に届いたのは「とにかくくさいから早く来てほしい」という悲鳴。調べると、近所の庭で有機肥料を使用している人がいた。不慣れなためか、発酵が不十分なまま土に埋めてしまい悪臭を放っていることが分かった。近所から苦情が出た旨を説明すると本人は「もう使わないことにします」。区としても「決まりがあるわけではないので強要はできない」(環境課)のが現状だ。


●マンションのベランダでも

部屋同士が密着し、共有部分が多いマンションなどの集合住宅も“畑”迷惑の現場になっている。マンション管理会社には「ベランダ菜園」に苦悩する声が届く。住民は近所トラブルになるのを避け、直接言わずに管理人や管理会社に連絡するからだ。「騒音やペットに比べ、退去に至るような大問題にはならないが、相当数の報告がある」というのは全国で約 7500棟のマンションを管理する日本ハウズイング。


内容は「干していた布団に土や水が飛んできた」「泥水が流れてきて配水管が詰まりベランダが水浸しになった」など。どの家庭か割り出しにくく、理事会便りやチラシの配布、張り紙で住民全体に注意を促す程度。「当事者は気づいていないかもしれない」(日本ハウズイング)という。


自治体などが運営し、より本格的に野菜作りをしたい人が利用する市民農園農林水産省によると、 08年度で3382カ所あり、1993年度に比べ約3倍に増えているが、ここでも事情は同様だ。


東京都世田谷区に届いたのは「雑草が生い茂っている場所があるからしっかり管理してほしい」という周辺住民の声。夏場には虫が集まる一因になる。農園内には利用者同士はもちろん、周辺住民から苦情が出ないように「ゴミは持ち帰ること」「早朝は静かにご利用ください」「利用区画外に私物を持ち込むのはご遠慮ください」などの張り紙をして注意を呼びかけている。


●日ごろから交流
もちろん、近所に配慮しながら家庭菜園を楽しんでいる人が多勢だろう。ただ、気づかぬうち迷惑を掛けていることもありうる。


「家庭菜園を巡る近所トラブルが起きるのは残念なこと。集合住宅のルールやご近所同士のマナーを守るのはもちろん、おすそ分けでコミュニケーションを取るなど工夫してほしい」と恵泉女学園大の藤田さんは話している。


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●やめた後の土の処理も難問!
家庭菜園を始めても、やめてしまう人も少なくない。殺虫剤大手のフマキラーが6月に全国の 20〜69歳を対象に実施した調査では、家庭菜園などの園芸をやめた人583人のうち、1年以内に中断したのは35%だった。


中断して困るのが、不要になった土の処理。枯れた根などを取り除いて天日干しし、腐葉土を混ぜるなどすれば再生土として使えるが、手間がかかるうえに場所がないという悩みを抱える人も多い。その一方、自治体の多くは原則として土を回収していない。


そんななか、家庭の不要土の回収と再生に取り組む自治体も出てきた。東京都目黒区は09年11月に1度目の回収をしたところ、107人が持参。今年5月の2度目の回収では、473人が持ち込んだ。その際、前回回収した土を再生させ希望者に無料配布したところ、30分で無くなった。


05年から回収している武蔵野市では、09年度は前年度に比べ回収量が2割増。現在は年6回の回収だが、「週に1回は『早く捨てたいがどうしたらいいか』と相談がある」。6月から回収を始めた中央区では「区民の 86%を集合住宅の住民が占め、土を干したり、ふるいにかけたりできない人が多い」(清掃リサイクル課)とみる。家庭菜園を始めるときには、後々のことまで考えておく必要があるようだ。