「野菜と花」提携 2大卸の背を押した農の窮状(日本経済新聞)

日本経済新聞 2010/8/14
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819698E0E1E2E3838DE2E6E2EAE0E2E3E2E2E2E2E2E2E2
青果物と花の取扱量で全国最大の東京・大田市場(大田区)。ここに拠点を置く青果卸最大手の東京青果(東京・大田、川田一光社長)と、花の卸最大手でジャスダックに上場している大田花き資本提携した。産地から商品を集めて市場で競りにかけるなどの業態は同じだが、扱う商品は全く異なる。野菜と花の「2大巨人」が手を結ぶ背景には市場構造の変化だけでなく、日本の農業が抱える問題点が透けて見える。



大田花きは6月14日、東京青果など4社に第三者割り当てで自社保有の株式を売り渡したと発表した。東京青果以外の3社は、なにわ花いちば(大阪市)などすべて同業者だ。もとをただせば4社に売り渡した株はSFCG(旧商工ファンド、2009年4月に経営破綻)が持っていたが、日本振興銀行が担保権を行使して取得した。これを09年11月に大田花きが買い取ったものだ。


今回の措置は敵対的買収を防衛するための安定株主づくりという面が強い。ただ4社の取得株数をみると、東京青果が50万株と突出し、第2位の大株主(6月14日現在)となった。東京青果と緊密な関係を築こうとする大田花きの意図が読み取れる。大田花きは1998年から東京青果の川田社長を社外取締役に迎えている。既に東京青果株も額面で1億5千万円分所有しており、株の持ち合いがこれで実現した。



市場の卸会社は荷受会社と呼ばれてきた。公正な商品の値決めと分配が第一の仕事とされ、高度成長期までは黙っていても商品が集まった。


こうした受け身の姿勢が今の時代に通用しなくなった。大手スーパーなどは卸売市場を通さずに産地から直接、魚や野菜を買い付ける量を増やしている。農協が自ら産地直売所を運営したり、ネット通販などの販路を築いたりする「市場外流通」が存在感を増している。大都市の市場の卸会社といえども、手をこまぬいては生き残れなくなっている。


産地の事情も変化してきた。長野県南部のように、ほぼ果物一辺倒だった産地が花の栽培を手掛けるなど、栽培品目や出荷品目を切り替える事例が目立つ。デフレで生鮮食品の卸価格が低迷するようになった09年秋以降、この傾向が強まった。 



消費者の野菜・果物離れ、花の消費減退によって農家の手取り収入は目減りしている。ひところより下がったとはいえ、燃料代は高く物流経費もかさむ。卸会社が受け取る手数料や資材費を差し引いた農家の手取りは、市場の卸値の2〜4割とされる。手取り収入が高い商品に作付けを変える動きが出ているほか、物流費を抑えるため近隣の市場だけに出荷する生産者も増えつつある。


農業従事者の過半数が65歳以上という担い手の高齢化も深刻だ。「今年入荷した農産物が来年も市場に入ってくるのか」と不安を口にする市場関係者もいるほどだ。


両社には互いに取引がある産地とのパイプを生かし、仕入れ先を増やす狙いもある。大田花きによると、みなみ信州農協(長野県飯田市)、庄内みどり農協(山形県鶴岡市)に共同で集荷営業をした。ともに果物と花の産地だ。消費者や市場のニーズを産地に伝え、栽培品目の選定に生かしてもらうような「コンサルティング的なビジネスも考えている」(大田花きの磯村信夫社長)。



両社の資本提携は日本の農業の窮状を見据えた戦略でもある。大田市場では農産物や魚介類の輸出入をしやすくするため、植物の検疫所を誘致する構想も浮上している。首都圏の台所からアジアの台所へと地位を高め、近隣市場との競争に勝ち残ろうとする動きもある。卸売市場の活性化には農業を側面から支援し、品ぞろえを確保することが必須条件となる。遅ればせながら卸売市場でこうした動きが出てきたわけだ。(編集委員 山岸寿之)



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ジャスダック
ベンチャー企業や中堅企業向けの株式市場で2010年3月末の時点では約870社が上場している。1963年の日本証券業協会の店頭登録制度が前身で04年12月から証券取引所となった。06年のライブドア事件以降は投資家の新興市場離れが進み、手数料収入が減少した。売買システムの統合によるコスト削減などを狙い、08年に大阪証券取引所の子会社となった。10年4月には吸収合併され、10月にジャスダック市場と大証ヘラクレス市場が統合される予定となっている。
●卸売市場[ wholesale market ]
卸売市場法に基づき、野菜、果実、魚類、肉類などの生鮮食料品や花きなどの卸売りのために開設される市場。農林水産大臣の認可を受けて開設される中央卸売市場と、都道府県知事の許可による地方卸売市場がある。中央卸売市場は生鮮食料品などの円滑な流通を確保するための中核的拠点となっている。
社外取締役[ outside director ]
会社の外部から登用する取締役。創業家出身や社内生え抜きの取締役に対して第三者の視点で助言したり経営を監視する役割を期待し米国などで普及した。取締役会の議論を活性化させる効果もある。他業界の企業の経営者や学識者が就任することが多い。日本でも普及したが、主要取引先金融機関や親密な取引先企業の関係者が就任することが依然として多く、こうした場合は経営監視機能を果たしにくいと指摘する声もある。
●農協[ Agricultural Cooperative ]
農業協同組合の略称。農産物の販売、生産、生産資材の購買、金融、技術・経営指導などを行う、農業者を主な組合員とする団体。組織は末端の市町村レベルに単位農協、都道府県に販売、購買、信用、共済、開拓、畜産、厚生などの各農協連合会、中央にそれらの全国農協連がある。単位農協は全国に約730ある。政策的問題については都道府県と中央にそれぞれ都道府県農協中央会と全国農協中央会(全中)がある。
●デフレ[ deflation ]
1国経済の需要が供給を下回り、物価が広範にわたって持続的に下落する現象。国際通貨基金IMF)は「物価の下落が2年以上続く状態」と定義している。物価の下落は企業収益を圧迫し、設備投資や雇用・所得を下押しする。こうした物価下落と景気悪化の連鎖を「デフレ・スパイラル」と呼ぶ。