野菜工場、畑違いの参入続々 運送・電設会社…活路求め(朝日新聞)

朝日新聞 2010年8月14日
http://www.asahi.com/national/update/0814/NGY201008140005.html

施設内で野菜を効率的に栽培する「植物工場」に、製造業など異業種からの参入が相次いでいる。不況の影響で受注が減った工場経営者らにとって、これまでに培った技術力を生かせる植物工場は、事業の幅を広げる格好の分野と受け止められているようだ。


山梨県山梨市の運送会社「山梨通運」は今年4月、不況の影響で使わなくなった倉庫を利用して、リーフレタスの栽培を実験的に始めた。幅6メートル、奥行き60センチの栽培棚を5段重ね、蛍光灯の明かりで水耕栽培している。


1日に60株、1年間で約2万株以上を収穫でき、栽培能力は広さ1千平方メートルの畑に匹敵するという。現在は地元のホテルなどに納入している。


担当者は「荷物が減ったのなら、自分たちで運べるものをつくろうと乗り出した」と話す。同社では、大型トラックの運転は55歳まで。「事業が軌道に乗れば、ハンドルを握れなくなった社員の新たな働き場所にもなる」と期待している。


同じような異業種からの参入は全国各地にある。


バジル、ルッコラエンダイブ……。愛知県大府市にある電気設備工事会社「林田電気システム」では、コンテナを利用した「野菜工房」の中で、数々の色鮮やかな葉物野菜が育っていた。社長の林田秀治さん(44)は「イタリアレストランなど3店に出しているが、生産が追いつかないことも。コンテナで作っているので、季節に関係なく、無農薬で栽培できるのが強み」と話す。


同社は、従業員約20人の町工場。以前はトヨタ自動車関連の仕事が大半で、工場の自動制御盤の設計や据え付けなどを請け負っていた。しかし、「トヨタショック」とも言われた2008年秋以降の不況で、仕事は激減。危機感を抱いた林田さんは、以前から関心のあった農業分野への参入を決断した。


昨年7月、植物工場の研究と開発を開始。敷地内に長さ約6メートル、幅約2.4メートル、高さ約2.6メートルの「20フィート型海上コンテナ」を設置して、野菜づくりを始めた。


室温や湿度、市販の化学肥料から調合する「液肥」の供給の管理には、自動車工場で培ってきた制御技術を生かしている。照明は蛍光灯やLEDを利用している。


コンテナを利用した野菜栽培システムの販売実績はまだないが、見学の申し込みは絶えない。不動産業者が「マンション住民向けの野菜工場は可能か」と相談に訪れたり、福祉作業所の職員が「利用者の新たな仕事にならないか」と見学に来たり。同社アグリ事業部長の粟谷章さん(48)は「さらにシステムの省エネ化を追求し、本格的な販売やリースにつなげたい」と意気込む。


大阪府豊中市の「東和製作所」は原材料の高騰で経営が厳しくなった3年前から、板金加工の技術を生かし、植物工場システムの開発に取り組んでいる。担当者は「輸出産業は今後も厳しい。内需が期待できる食の分野に目を付けた」と説明する。


コンテナ型のシステムを中東諸国に売り込むことに成功するなど、実績を上げる企業も出てきた。ただし、農林水産省によると、施設の初期投資や運転コストがかさみ、苦戦を強いられている企業も多く、新規参入者の経営ノウハウを高めることが課題だという。