【レビュー・書評】書店員に聞く 食の大切さを考えさせられる本(朝日新聞)

朝日新聞 再読こんな時こんな本 2010年7月10日
http://book.asahi.com/saidoku/TKY201007090286.html

蒸し暑くってたまりません。夏には毎年何キロかやせてしまう記者ですが、今年はきちんと食べて健康を維持したいと思っています。食の大切さを考えさせられる本を集めました。(中島耕太郎)


紀伊国屋書店 市橋栄一さんのおすすめ


〈1〉発酵は力なり 食と人類の知恵 [著]小泉武夫 http://www.amazon.co.jp/dp/4140841834
〈2〉ベジタリアンの医学 [著]蒲原聖可 http://www.amazon.co.jp/dp/4582852629
〈3〉野菜が壊れる [著]新留勝行 http://www.amazon.co.jp/dp/4087204693
 ▽記者のお薦め
〈4〉台所のおと [著]幸田文 http://www.amazon.co.jp/dp/4062630273


事件記者時代はストレスによる暴飲暴食から3年で10キロ太った記者も、最近は子どもに朝食を用意する役回りとなり、食事の内容や安全性に無関心ではいられなくなった。


我が家の2歳児が毎朝のように食べる納豆。その素晴らしさを教えてくれるのが、(1)『発酵は力なり 食と人類の知恵』。たんぱく質やミネラル、ビタミンが豊富な納豆は、納豆菌が腸の中で悪玉菌の繁殖を防ぐうえ、酵素の作用で血栓まで溶かすそうだ。


納豆だけでなく、漬物や酒、みそ、かつお節、パンなど、食卓は発酵食品であふれている。本書はその歴史とおいしさの訳、健康上の効能を、発酵学の大家である著者が記す。「発酵食品がまさに『元気のもと』であると再認識させられる。発酵という神秘の世界に深く感謝し、これからもそれらと共に生きていきたいと思った」と市橋さんは感服しきりだ。


食による病気予防の視点は、医師が書いた(2)『ベジタリアンの医学』でさらに顕著だ。「ベジタリアン」は、「菜食主義者」と訳すのは誤りで、「健全な」といった意味のラテン語「vegetus」に由来するという指摘に始まる。「ベジタリアン食」を穀物、豆類、野菜、果物など植物性食品を中心にとり、動物性食品を避ける食生活と定義し、その効果とリスクを科学的に検証する。


「エネルギーやビタミン、ミネラルなどをバランスよくとるベジタリアン食の指針が示され、食べることへの意識が大きく変わった」と市橋さんは評価する。


でも、食事で健康を維持しようにも、食品自体が健全でなかったら? 国産の農畜産物の安全性に警鐘を鳴らすのが、(3)『野菜が壊れる』だ。


農業研究者である著者は、耕地面積当たりの農薬使用量が日本は世界一多いといったデータで「化学肥料漬け」の現状を指摘。良質な土作りや有機肥料への転換こそが健全な食物を生み出し、私たちの健康に寄与すると説く。「『いのちの力』への絶大な信頼を感じた」と市橋さん。


最後に記者は小説(4)『台所のおと』を勧める。幸田露伴の娘として、台所での所作を厳しくしつけられた著者による短編集だ。表題作は、夫の病気が不治であることを本人に隠し通そうとする妻の心の葛藤(かっとう)に、料理人である夫が包丁の音で気づく。病の物語の中に繰り返し「食」が登場することで、幸せの基礎が健康であること、健康を作るのは食事であることを、しみじみ感じさせられる。