農業政策 ばらまきでは強くなれない(読売新聞)


読売新聞 社説 2010年7月9日
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100709-OYT1T00047.htm
国民生活に不可欠な食料を確保しながら、競争力を高めて成長産業として再生する――。


農業政策が目指す方向は明らかで、経営感覚に優れた農家に手厚く支援することが何より重要である。


しかし、参院選では、農村票欲しさから、各政党が、相変わらずばらまき型の保護策を公約に掲げている。


人気取り政策ばかりでは、衰退に歯止めをかけることはできない。各党は、農業の将来を見据えた議論を戦わせるべきである。


農業の現状は厳しい。20年間で農家の数は4割減り、耕作放棄地は埼玉県の広さに匹敵する。


この状況に歯止めをかけることを狙いに、民主党は、コメ農家を対象に4月から戸別所得補償制度を導入した。


減反に協力することを前提に、水田10アール当たり1万5000円の定額補助を出す。米価が下がって生産費用を下回れば、その分も政府が補填(ほてん)する仕組みだ。対象農家の経営規模などは問われない。


参院選では、この仕組みを他の品目や林業、漁業などにも拡充する公約を掲げた。


だが、問題は財源だ。今年度は農業予算の4分の1に当たる5600億円が計上された。コメ以外に拡大されれば、予算額は1兆円以上に膨れあがるとみられる。


しかも、それほどの巨費を投じても、生産性向上は期待できそうにないのが難点と言える。


コメの所得補償は、零細な兼業農家補助金がもらえる。こうした農家が農地を手放さず、逆に貸した農地を取り戻す動きが各地で出ている。


これでは、専業農家に土地を集めて規模を拡大し、収益を上げるという目標は実現できまい。


自民党が打ち出した所得安定制度にしても、農家の効率化を促すというが、内容は不透明だ。


各党の政策は、農業保護と貿易自由化をどう両立させるかという視点にも欠ける。


日本は、農業を「聖域」扱いしているため、自由貿易協定などの交渉で立ち遅れている。


農家への戸別所得補償は、農産物の市場開放と一体的に考えなければならない。高い関税を引き下げれば農産物の輸入が増え、国産品の値段は下がる。


消費者は恩恵を受けるが、農家には打撃となる。そこを救うのが所得補償の本来の趣旨である。

巨額の財政負担を考えれば、農業政策は、消費者も納得できるものでなければならない。