農地「貸しはがし」拡大 大規模農家側、狂う経営計画 (河北新報)


河北新報 東北地方のニュース 2010年04月25日
http://www.kahoku.co.jp/news/2010/04/20100425t72012.htm

コメの戸別所得補償制度導入が具体化した昨年秋以降、大規模農家に田んぼを委託していた農家が、農地の返却を迫る「貸しはがし」の動きが一部で起きた。米粉用米などの新規需要米を作った場合に受け取る助成金が高水準なため、「貸すよりも得だ」と判断した農家が再び自分で耕作しようと考えた結果だ。農地の返却を迫られ、経営計画の修正を余儀なくされた大規模農家は、スタートしたばかりの戸別所得補償制度に複雑な思いを抱いている。(登米支局・柏葉竜)


◎戸別所得補償で助成金高額/委託農家側が返却迫る


◆5戸打ち切り
4月に加入受け付けが始まった戸別所得補償制度に関する新聞やテレビの報道に触れるたび、登米市南方町の農業高橋清範さん(56)の胸には釈然としない思いが広がる。
発端は昨年11月だった。近所の農家から電話で「来年から自分で耕したいので、貸している1ヘクタールの田んぼを返してほしい」との申し出を受けた。
「これ以上、同じような要求が続かなければいいのだが…」。高橋さんの嫌な予感は的中した。昨年12月から今年2月にかけ、さらに4戸の農家が計約2ヘクタールの貸借契約を打ち切りたいと申し出てきた。
高橋さんは昨年、契約打ち切りになった5戸の農家からの分も含め、約20戸の農家から計約12ヘクタールの田んぼを借り受けていた。40頭近くの繁殖用の牛を飼う高橋さんは、近くの畜産農家2戸と協力し、借りた田んぼで牛の餌にする牧草を作っている。
契約打ち切りで、牧草の栽培面積が約3ヘクタール分減るため、代わりの餌を買ったり、わらを加工したりしなければいけなくなる。
「今年は昨年と比べ、餌にかかる経費が2割ほど増えそう。不況で牛の販売価格も下がっている。二重の打撃だ」と表情を曇らせる。
「自分で米粉用米を作りたいから」。田んぼの返却を求めた農家のほとんどは理由をこう説明した。


◆耕した方が得
戸別所得補償制度とセットで始まった水田利活用自給力向上事業で、国は米粉用や飼料用などの新規需要米を転作作物として認めた。
麦や大豆の栽培と違い、主食用のコメ作りと同じ農機具を使えるのが新規需要米の魅力の一つ。しかも、助成金は10アール当たり8万円と、麦や大豆の3万5000円と比べて高い。
農林水産省の試算では、助成金米粉用米の販売収入を加え、経費を差し引いた所得は4万3000円。高橋さんが水田を貸してくれた農家に支払うのは3万円程度だ。
「貸すより自分で耕した方が利益が上がるとなれば、返してくれとなるのは仕方ない」とあきらめ顔の高橋さん。「あまりに急激な農政転換で経営計画が狂った。農政を転換するにしても時間をかけて変えてほしかった」と、怒りの矛先は民主党政権に向かう。


◆ 「虫がいい話」
高橋さんの事例も知る登米市農業委員会の秋山耕会長(60)は「市内外の農業委員の話を聞くと、農地の貸しはがしの動きは各地で起こっている」と言う。
秋山会長が心配するのは、来年以降のことだ。「仮に転作助成金が大幅に下がるようなことになったとき、『やっぱり元の農家に耕作してもらいたい』と言っても、そんな虫がいい話が通るだろうか」
引き受け手がいなければ農地は荒れてしまう。
「一番に考えなければいけないのは、地域の農地を将来にわたって耕す農家を育てることだ」。秋山会長は国の農政にも農家にも、その点を考えてほしいと思っている。


2010年04月25日日曜日

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