'10参院選 戸別補償、揺れる農家(毎日新聞)


毎日新聞 2010年7月4日
http://mainichi.jp/select/seiji/10saninsen/news/20100704ddm001010063000c.html
米粉米へ転作、広がるか メリット薄れる集落営農


地平線まで水田が広がる秋田県大潟村に昨年10月、製めん工場が完成した。原料は小麦ではなく米。株式会社「大潟村あきたこまち生産者協会」の涌井徹社長(61)は「米粉のめんでもビジネスになる。そのうえ食料自給率も向上する」と、2億円を投資した。耕地約2000ヘクタールに、あきたこまち米粉米を半分ずつ作付けする。新産業を支援する農水省の補助を受け、今月中旬に米粉米を製粉する工場も起工する。


大規模営農の拠点として国が干拓した大潟村減反に振り回されてきた。涌井氏は減反に従わない「闇米派のリーダー」。村内外で摩擦が絶えず、「犯罪者扱いされずに米を作れる」として、「米戸別所得補償モデル事業」と、新規需要米(米粉、飼料用など)への転作を支援する「水田利活用自給力向上事業」への参加を決めた。


米戸別補償は、販売価格が生産コストを下回った場合に補償する制度。減反が条件で、10アール当たり年1万5000円が支給される。一方、食料自給率の向上が目的の水田利活用では10アール当たり年8万円の補助が出る。米粉米など販売価格が低い米への転作になる分、手厚い補助になっている。ただ、販売契約があるのが条件。涌井氏は生産、加工、販売まで行う「食品コンビナート」を自社で完結させることで条件をクリアした。月100万食の「米めん」製造を目指す。


ただ、一般の農家が販路を開拓するのは容易ではなく、米粉米への切り替えがどこまで進むかは不透明だ。輸入小麦粉から米粉への転換は米の需要を増やすが、国内市場は確立しておらず消費が伸びるかも未知数。新制度を評価する涌井氏だが「国は生産だけ支援して市場との連動がない。消費拡大に予算を集中した方が効果的」とも語る。


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奥羽山脈のふもとに広がる仙北平野は昔ながらの穀倉地帯。同県大仙市の「中仙さくらファーム」は、自公政権の大規模化方針を踏まえ05年に農事組合法人になった。高齢化で耕作放棄された水田など約38ヘクタールの農作業を受託し、大部分で転作した大豆を生産する。売上高は05年の4700万円から08年は7000万円に増加した。


しかし、今年度は転作大豆が対象の産地確立交付金が廃止。田村誠市代表理事(53)は「(民主党政権は)一生懸命やる農家の補助金を削り、(戸別補償で)広くばらまいている。自立できる農家を作るという目標が見えない」と不満を漏らす。


同市の上八幡集落営農組合の小松軍一組合長(66)は戸別補償で「地域のきずなを崩された」と嘆いた。


07年に農水省の「水田経営所得安定対策」が20ヘクタール以上の集落営農を補助対象としたのを受け、地域の16戸26ヘクタールで集落営農を作った。大豆の転作を始め、借金して600万円(国、県が半額補助)で大豆管理機も購入した。


しかし、戸別補償の発表を受け3月、組合員2人が脱退した。戸別で所得補償が受けられるからだった。「借金を返すまでは続けるが、集落化のメリットがなければ解散だ」


民主党の目玉政策である戸別補償だが、農村には賛否が交錯する。農家の競争力を高める方策がなければ、強い農業の確立や自給率の向上といった農業政策がないままのバラマキに終わる恐れがある。