グルメサイト戦争! 口コミパワーで食べログが首位奪取、王座陥落のぐるなび(東洋経済)


東洋経済 2010/08/22
http://news.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/aa3ee7e606b398bbb813c33a1283da0b/
日本の飲食店情報サイトの首位がついに交代した。

 
今年に入り、長らく飲食店情報サイトのトップをキープしていたぐるなびが運営する「ぐるなび」を、カカクコムが運営する「食べログ」が利用者ベースで追い抜き、食べログが首位の座を固めている。

 
両者の明暗を分けているのが、情報のソースだ。

 
ぐるなびは、飲食店が発信する情報をベースにサイトを作成しているのが特徴で、いわば、飲食店の広告を集めた飲食店ガイドブックのインターネット版だ。ぐるなびが飲食店を回って情報の掲載を募り、飲食店が発信する情報を掲載するのが基本。

 
これに対して、食べログは、ネットユーザーが勝手に投稿した飲食店の口コミを集積したサイトだ。飲食店の意思とは関係なく、利用者の「ホンネ」ベースの情報が書き込まれるのが特徴だ。価格比較サイト「価格.com」を運営し、口コミをサイトの重要なコンテンツとして活用してきたカカクコムが、そのノウハウを飲食店情報に展開した。


■各種の調査で「食べログ」が「ぐるなび」を抜く

事業者、メディア側の発信から始まったインターネットだが、いまやブログやSNSに代表されるように、個人が発信した情報が、ネットユーザーに大きな影響を与えるようになっている。モノを売りたい側の発信が、消費者側の情報に比べて、どんどん影響力を失いつつある。


こうした流れの中で、飲食店情報も、飲食店側が発信するぐるなび方式から、利用者が発信する食べログ方式に支持が移った、というわけだ。
 

ぐるなびは飲食店が発信する情報という特性もあって、宴会など法人需要にターゲットを合わせてきたことから、昨今の不況による法人需要の減少が逆風となっている。一方、食べログは私的な(いわゆる自腹)需要が中心のため、フトコロ事情が厳しくなる中、消費者のより「店選びに失敗したくない」心理がプラスに働いている。
 

利用動向の変化は、ぐるなびとカカクコムの業績にも如実に影響を与えている。
 

ぐるなびの2011年3月期第1四半期(10年4〜6月期)決算は、売上高で前年同期比8.3%増にとどまり、前四半期比では▲7%という大幅なマイナスとなった。第1四半期は不需要期とはいえ、09年4〜6月期は同1〜3月期に比べ▲1.7%のマイナス程度でとどまったことを考えると落ち込みが目立つ。営業利益は、拡販を狙った営業体制強化で販促費が膨らみ、前年同期比で▲4%の減益となった。
 

ぐるなびの収益のほとんどは、飲食店から受け取るサイトへの情報掲載料だ。主力の販促正会員プランの場合で月額5万円。全国に営業網を張り巡らせ、営業員が地道に飲食店を回り受注する。これまでは新規の受注を取り込むとともに、忘年会シーズンなどに合わせて、既存顧客の飲食店にもさまざま販促広告のオプションを販売、1飲食店当たりの収益も引き上げてきた(直近で約3.5万円、販促正会員よりサービス・価格水準の低い会員があるため平均は5万円より低くなる)。
 

しかし、足元では既存顧客の解約が増え、また飲食店当たりの収益も伸び悩んでいる。外食業界の不況で飲食店の閉店が増えていることに加え、サイト利用の伸び悩みから、ぐるなびへの広告掲載のコストパフォーマンスが低下しているためだ。この結果、忘年会シーズンの昨年末をピークに、飲食店からの情報掲載料は頭打ちで、これが業績を直撃している。


一方、カカクコムの食べログは、飲食店向けの有料情報掲載は月額5000円と少額で、そもそも課金を本格的に開始したのが昨年からのため、まだ業績への影響は小さい。しかし、この11年3月期第1四半期(10年4〜6月期)で2.85億円の売上高を計上。前年同四半期比で3.1倍、前四半期比でも47.7%と急伸している。有料サービスを利用する飲食店は6月末で約1万店、今期末には2万〜3万店をターゲットに置く。
 

食べログの場合、飲食店のコア情報を作るのは口コミを投稿する個人。飲食店側からの情報掲載ついても、ぐるなびのような営業員によるマーケティングのコンサルはいっさいなく、飲食店任せだ。飲食店への営業も、ネット経由の受注と、極めて少人数による電話営業のみ。したがって、カカクコムが投下する費用は非常に少ない。それゆえ、月額5000円という廉価の料金が設定できるわけだ。
 

不況下の飲食店としては、営業員によるサポートがあってもぐるなびの5万円はきついが、5000円ならダメ元で許容できる水準だろう。仮に食べログの集客力がぐるなびの10分の1でも費用対効果は同じだ。
 

サイト全体の集客力では食べログぐるなびを上回っているだけに、店舗ごとの差はあれ、全体としてはコストパフォーマンスは食べログのほうが良い。それが両者の業績の勢いの差、となって現れてきているといえるだろう。
 

カカクコムでは、技術的な制約から月額課金制をとっているものの、飲食店の売り上げに比例しないこの定額制は合理的でないとみている。技術開発を進め、食べログ経由で実際の飲食店の売り上げにつながったときだけ、報酬が発生する成果報酬型の仕組みを検討しているところだ。そうなれば、ネットによる集客効果に懐疑的な飲食店もどんどん取り込むことができると考えている。


一方、守勢に回ったぐるなびは、サイトのリニューアルを進めているところ。4月にはトップページなどの表示を変更して情報量をを増やしたほか、検索結果の表示も改善し、利用者が目的に合わせて飲食店を検索しやすくした。7月には、店舗紹介のページを改善し、より店舗の特徴が強調されるように工夫し、パソコンだけでなく、携帯やスマートフォン向けのサービスも充実させている。
 

また、ぐるなびは一見ネット企業だが、実は多くの営業員を抱えて、飲食店に対して手厚いアプローチをする「営業力」が強み。今期は、顧客飲食店をサポートし、また新規加盟店を開拓する営業体制の充実にも、重点的に取り組んでいるところだ。
 

営業力+飲食店公式情報のぐるなび。対する情報技術+口コミの食べログ。不況下の外食業界を舞台としたガチンコ勝負は一段とヒートアップしそうだ。
(丸山 尚文 =東洋経済オンライン)