選挙de談義 都市農業(朝日新聞)


朝日新聞 マイタウン東京 2010年06月22日
http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000001006220001

◆「次代へ継げる政策を」
19日、国分寺市西恋ケ窪のスーパー駐車場。地元の農家が取りたての野菜を次々に持ち込んだ。特産のウド、葉っぱつきの大根、完熟トマト……。ここはJA東京むさし国分寺直会の直売所だ。


「東京の農業は消費者がそばにいて、新鮮な野菜をじかに売れる。やりがいあるよ」


汗をぬぐいつつ、こう語るのは元証券マンの小柳浩介さん(47)だ。銀行員の家庭で育ち、農業とは無縁。27歳で証券会社を辞め、婿入りで農業を始めた。トウモロコシやトマトを育てている。


直会長の榎戸武司さん(53)が続けた。


「直売形式なら生産者も消費者もお互いの顔が見える。都市農業の魅力は消費者が目の前にいること」。メンバーは大半の野菜を直売で売る。


とはいえ、都市ならではの苦労は絶えない。畑にごみを捨てられる。街灯や住宅の明かりでホウレン草の生育が狂う。「肥料が臭い。市役所に連絡するぞ」とも言われる。


小柳さんは「緑が残って新鮮な野菜を食べられる。災害時には避難場所にもなる。都市の農地はいいところがいっぱいあるけど、そうは考えてくれないのかな」。


都市農業の大きな課題は税制問題だ。「懸命に働いても親から子に引き継ぐ時に相続税が重くのしかかる。みんな農地が残るか心配しながらやっている」。小柳さんが言うと、農家仲間は「そうそう」と相づちを打った。


長年、農家が訴えても改善されず、現状を変えるのは難しい、と感じる人もいる。


しかし、榎戸さんはあきらめていない。「都市農業を守るためには相続税の負担を軽減する納税猶予制度を堅持しなければならない」と話す。


相続時に宅地並みに課税され、重荷になっている納屋や防風林なども農地として扱ってほしいと望んでいる。参院選では、現場に足を運んでくれた候補者に一票を託すつもりだ。


この日、直売所の店番に立った小坂良夫さん(53)は、主に有機質肥料を使って約50種類の野菜を栽培している。やはり都市化や税制問題にほんろうされてきた。


以前は稲作もしていたが、生活排水で水路が汚れ、ネズミが発生。稲穂を食べてしまうようになり、1960年代にやめた。83年に祖父が亡くなった時には相続税の負担で、農地を2・6ヘクタールから2ヘクタールに減らさざるをえなかった。


「やる気のある農家はたくさんいる。都市でも農業を続けられるような政策を実現してほしい」


同じ日、旬の野菜や果物などが並ぶアークヒルズ(港区)の特設市場「ヒルズマルシェ」。小坂さんの子どもたち3人が野菜を売った。


4キロ近い大きなキャベツを持ち上げて品定めする常連客。東京農大3年の次男知儀(とも・よし)さん(20)が「減農薬なので葉を虫が食べているかもしれません」と伝えると、客は「気にしないよ」と笑った。


「東京で農業を続けるのは大変だけど、負けない。喜んでもらえるいい野菜を作っていく」。知儀さんは改めて思った。
(黒川和久)


※都市の農業※
高度経済成長期の急激な都市化で、農地や担い手は大幅に減少し、その傾向は今も続いている。1960年に3万1447ヘクタールあった都内の農地面積は、05年は8340ヘクタール。他の産業並みの所得の確保が容易でなく、身近に多様な就業機会があるため担い手も不足する。


都が09年度に実施した都政モニターアンケートでは「東京に農業・農地を残したいと思う人」は85%。前回(05年度)より4ポイント上昇した。