'10参院選<争点を歩く> 農家戸別所得補償制度 地域ごとの実態把握を(東京新聞)


東京新聞 神奈川 2010年6月21日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/20100621/CK2010062102000068.html

約八百ヘクタールと県内で最多面積の水田が広がり「神奈川の米どころ」として知られる平塚市。六月に入り、稲の苗が整然と並んだ田に目をやりながらJA湘南(同市)の幹部は強調した。「今回の補償制度はいい政策。利用しないと意味がない」


民主党の看板政策で、本年度から米を対象に始まった戸別所得補償制度。生産調整に応じる主食用米生産農家に対し、生産コストと販売価額の差額として十アール当たり一万五千円を直接交付する。


自民党政権下でも水田農家の補てん対策はあったが、水田面積が一定水準以上などの要件があった。これに対し新制度は原則すべての米作農家が対象。政府は米作りへの農家の意欲向上や食料自給率アップをもくろむ。


水田農家一戸当たりの作付面積が平均約五十四アールの平塚市では、制度対象農家約八百戸中約三百戸が補償申請を済ませた。JA湘南幹部は「一層の周知に努め、申請者を増やしたい」と意気込む。


しかし、当の農家の思いは複雑だ。「お金がもらえるのはありがたいが…」。同市で水田二百アールを耕す男性(85)はこう前置きした上で「おれは八十歳を超えてもまだ働いている。後継ぎがいないんだ」と、補償より後継者育成に努めるよう注文を付けた。別の男性(82)も「農家の所得水準を引き上げ、若い人が参入できるようなやり方を取らにゃ」と、農業立て直しの抜本的対策を促した。


一方、平塚市と異なり、十〜二十アールの水田が大半の横浜市北西部。JA田奈管内(同市青葉、緑区)では、補償を申請した水田農家はいないという。一帯では、地元消費者への直売など「地産地消」で米を売り切る農家が多い。市が緑地保全目的で、耕作水田に奨励金を出しており、生産調整に応じる水田農家はほとんどない。


制度に詳しいある県内自治体職員は、JA田奈管内の農家規模での補償額を年間一万円前後と試算。「そのためにわざわざ田んぼをつぶして生産調整に踏み切る農家はいないのでは」と解説する。


県によると、県内では作付面積五十アール未満の水田農家が85%を占める。五十アール未満の場合、生産コストを満たすために必要な補償額は十アール当たり六万九千円に上り、国の補償額では五万四千円も不足する計算となる。


JA田奈常務理事の下山和洋さん(61)はこう指摘する。「新制度は大規模経営農家を意識したもので、都市型農業にはあまり意味はない。民主党政権は、地域ごとに異なる農業の実態をよく把握するべきだ」 (加藤木信夫、中山高志)